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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)11157号 判決

原告 加藤健蔵

右訴訟代理人弁護士 矢代操

被告 株式会社オピニオンリーダーズ

同 岡井源朗

右訴訟代理人弁護士 石丸九郎

主文

被告らは各自原告に対し金七六万八、五〇〇円およびこれに対する昭和四〇年一二月二六日以降完済まで年六分の金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決はかりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)  被告会社は原告に対し別紙手形目録記載の約束手形合計八通を振出し、原告は現に右手形の所持人である。

(二)  被告岡井は昭和四〇年五月二〇日手形外で前項手形金債務につき被告会社のため連帯保証をした。

(三)  よって、原告は被告らに対し連帯して右(1)ないし(7)の手形金および(8)の手形金中六万八、五〇〇円以上合計金七六万万八、五〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四〇年一二月二六日以降完済に至るまで、商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告両名訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、次のように述べた。

(一)  被告会社が原告主張の約束手形八通を振出し、原告が現にこれを所持する事実は認める。被告岡井が右手形の支払について連帯保証をした事実は否認する。

(二)、(1) 被告会社は昭和三九年一〇月頃当時訴外第一信用組合の営業課長であった原告に対し、同組合から約二百万円程度の金融を受けることを交渉したところ、原告はトップ貸(二〇〇万円の金融を受けるには二百万円の定期積金契約を組合と締結して第一回分の積金を掛けると直ちに二百万円の融資が受けられる方法)という方法があるから、先づ第一段階として二〇万円の融資を受けられるようにしてやり、その次に二百万円の融資を受けられるようにしてやる。しかし組合から金が出るまで高利だが僅かな間だから自分の金を使っておけ、組合から融資を受けたら返済して欲しいとのことであった。

(2) そこで被告会社は同年一〇月以降九回に亘り原告から合計金七六万八、五〇〇円を借受けた。そしてその返済のため右借受金に手数料七万九、五〇〇円を加算した本件各手形外一通を振出した。それと同時に被告会社は同年一〇月一五日前記組合との間に三〇万円の定期積金契約を締結してその後二回に亘り一万五、七二〇円の積金をした。

(3) ところが、原告は右組合を辞めさせられて、被告会社との約束は履行することが不可能となった。

すると、原告は右組合からの金融が得られなくなった埋合せに前記原告の被告会社に対する貸金を被告会社に対する投資に切替え、重役として入社し他から二〇〇万円の融資を受けてやると持ち掛けてきたので、被告会社は原告を被告会社の重役として入社させた。しかし、原告にはその能力がなく二ケ月位で被告会社を辞めた。

(4) その後被告会社は倒産するに至ったが、昭和四〇年五月二〇日頃被告岡井は原告に呼び出されて、原告及び訴外石原義夫並びに裁判所書記官と称する男から前記被告会社の債務の弁済を求められ、右債務負担の事実、返済不能の原因となった被告会社の倒産が被告岡井の責任であることの確認を求められたので、これを確認し、その債務の弁済方法については後日改めて協議することにし、前記三名のいうとおり記載した書面(甲第二号証)を原告に差入れた。

(5) しかしながら右確認の趣旨は、本件手形振出の原因である被告会社の原告に対する債務の弁済の方法は追て協議の上決定するというものであり、原告は右協議に応じないのであるから未だその弁済方法は協定されていないのである。従って被告岡井はもちろん被告会社としても原告の本訴請求には応じられない。

原告訴訟代理人は右被告らの主張に対し、次のとおり答弁した。

原告がもと第一信用組合の営業課長であったこと及び原告が被告会社に対し昭和三九年一〇月頃以降九回に亘り合計金七六万八、五〇〇円を貸与し、その弁済のため手数料七万九、五〇〇円を加算して本件各手形の振出を受けた事実は認める(従って本訴請求金額を右七六万八、五〇〇円の限度に減縮した)が、その余の被告ら主張事実は否認する。

証拠関係〈省略〉

理由

被告会社が原告に対し別紙手形目録記載の(1)ないし(8)の約束手形計八通を振出し、原告が現に右手形を所持すること並びに右各手形は原告の被告会社に対する金七六万八、五〇〇円の債務の弁済のために他の手形一通とともに振出されたものであることは本件各当事者間に争がない。

成立に争のない甲第二号証、証人山本錦之助及び同石原義夫(後記措信しない部分を除く)の各証言並びに原告本人尋問の結果を綜合すると、被告岡井は昭和四〇年五月二〇日原告に対し当時被告会社は事実上倒産していたので、前記認定の手形債務について右会社のため被告岡井個人が保証することを約した事実が認められ、証人石原義夫の証言及び被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠を対比して信用することができず、他に上記認定を動かし得る証拠はない。

被告らは、本件手形金の支払については追て協議の上決定する旨の約定がなされたところ、原告は右協議に応じないのであるからその弁済期が到来していない旨主張し、被告本人は右主張にそう供述をしているが、右供述はにわかに信用することができない。

もっとも、前掲甲第二号証には「尚支払については追て約束いたします」なる記載のあることが認められるが原告本人尋問の結果によると、同被告岡井は同年六月二七日原告方にきて前記債務弁済の方法を決めることを約したので、同号証にはその趣旨の記載がなされたものであるところ、同被告は右六月二七日にはもちろんそれ以後においても原告方に来ることなく、右債務の支払の申出をしていないことが認められる。

そうだとすれば、右甲第二号証の記載は、本件各手形の支払期日ないしはその原因債務の弁済期を変更し、その弁済期日を後日協議の上決定することを約したものではなく、その支払を一時猶予した趣旨に過ぎないものと認めるを相当とするから、右甲第二号証の記載は被告の主張を肯定する証拠とはし難く、他に被告主張事実を認め得る証拠はない。

よって、被告らに対し各自本件(1)ないし(7)の手形金および(8)の手形金中六万八、五〇〇円以上合計金七六万八、五〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明かな昭和四〇年一二月二六日から完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべきものであるから、民事訴訟法第八九条、第九三条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

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